最先端研究探訪(とくtalk185号)

トップ記事最先端研究探訪(とくtalk185号)

宇宙の謎を紐解く鍵となるダークマターを追って

185-01.png
185-02.png
中央の黒いブロックを積み上げたようなものは、ダーク
マター探索装置の純度を測る装置の縮小モデル。
2週間に1回液体窒素を入れて 低温に保つのが大変だったそうです。


185-04.png
岐阜県飛騨市の神岡地下実験室に設置した、ピコロンの装置。
赤くなっているのは、通常の光を当てると装置の感度に悪影響を
与えるためです。この装置で、現状世界1に並ぶレベルの低バッ
クグラウンドを達成しました。

ダークマターを検出する実験装置のその後

 今を遡ること10年前。今回と同じく、『とくtalk』の最先端研究探訪のコーナーに伏見先生の研究室が取り上げられ、「ダークマターを捜索するための実験装置を開発中」と書かれていました。ダークマターとは、宇宙の成り立ちや宇宙の構造、宇宙の進化の謎を紐解く鍵となる正体不明の素粒子。
 当時の記事にはダークマターの特徴として「光を出さず吸収もしない謎の物質」、「いかなる電磁波を用いても見ることのできない」と紹介されていましたが、その後、実験装置は無事完成したのでしょうか?
 「10年間試行錯誤して、放射性不純物を世界最高レベルで除去することに成功し、岐阜県飛騨市にある地下の神岡実験室に試作機を2つ設置し、実験を始めるまでにこぎ着けました」と話す伏見先生。本格的な実験装置の建設は予算が下りてからになるそうですが、「これまで人類が検知することができなかったものを、特別な装置を作ってなんとか捕まえたい」と長年抱いてきた夢は、着実に前進しているようです。

100万分の1秒という一瞬の閃光を捉える

 ダークマターを検知するための実験装置の名前は「ピコロン」。ダークマターは目で見ることはできませんが、「おそらくひとつひとつの原子核とは、ごく稀にぶつかるだろう」という仮説のもと、放射線検出器と同じ原理を用いて開発されました。
 「ごく稀にぶつかる」とは、「1トンくらいの装置を置いておくと1年に数回、ぶつかるかな?」という程度。この貴重な数回を確実にキャッチするためにも、実験装置を大きくし、ダークマターだけに反応するよう、邪魔者となる環境放射線のシャットアウトを最重要課題として取り組んできました。
 「環境放射線は日常的にたくさんあって、岩や空気、人間の体からも出ています。そのため1秒間に何千発もダークマターに当たります。
 ダークマターの観測装置はとても高感度なので、そうした放射線のひとつひとつに反応してしまうため、神岡の地下に潜り、岩などから発せられる放射線もブロックできるよう、鉛で囲っています」。
 そのため見た目は、まったく面白みのないカタチだそうですが、ダークマターを検出するとピカッと光るのだとか。その速さは100万分の1秒…。
 ごく稀にしかヒットせず、ヒットしたのか、しないのかも分からないほどの超高速の光。それが本当にダークマターなのか、どうやって見分けるのかと伺うと、「状況証拠を見ながら、名探偵になったつもりで、推理を積み重ねていくしかないですね」と、なんだか楽しそうな伏見先生。
 長年の研究や世界の状況、他の研究グループとの比較など、あらゆる手を尽くしてダークマターを探索してきたからこそ、「実験によって何か予期せぬことが起こるかも」というワクワク感が、話の端々に感じられます。

 

185-03.png
この分野の実験装置は車に例えるとF1クラスで、天文学という
より、ほぼ工学なのだそう。「望遠鏡で星を見たりはしないんです
ね?」というと、「今どき、夜空を肉眼で観察している天文学者は
いません(笑)」と伏見先生。

"標準模型"に当てはまらない想定外の結果を求めて

 宇宙について説明するとき、 "標準模型〞という理論が用いられるそうですが、標準模型だけでは、説明がつかないことがたくさんあるといいます。
 「標準模型は素粒子の反応など、すごく細かく計算できるんですが、その理論だと宇宙の始まりがどうだったかは説明できないんです。宇宙が何故こうなったのか、宇宙の始まりは一体何だったのか。昔、標準模型では説明できないスゴいことが起こって、その結果、今の我々が知っている宇宙になっていったのだろうと推測されるものの、今のところ標準模型を覆す結果は出ていません。
 だいたいみんな、計算通りに正解が出たら、喜びますよね?でも我々は、計算通りに結果が出たら残念がるんです。『なんだよ、標準模型のままじゃん』って。
 標準模型では説明できていない素粒子が見つかれば、それが正解だと絞り込める。そのためにもダークマター探索など、もっともっといろいろな方法を試していきたいと思って、今がんばって装置を作っています。
 来年の3月までには大きな装置を作って、それで実験をしようと計画しているので、それが動けば、徳島大学が日本国内でダークマターをやっている数少ない大学のひとつになります。予算申請が通っていれば…ですけど、そのための状況証拠はだいぶ積み上げてきたので、なんとか通るのではないかと思っています」。
 10年前の『とくtalk』に「生涯をこの研究と大きなロマンにかけていきたい」という伏見先生の言葉が記されていました。それは今も、これからも変ることなく、大いなる情熱と共に宇宙の謎とダークマターの正体に迫っていくことと思います。

185-05.png
研究室のみなさん。かつてはダークマターではなく、暗黒物質とい
われていましたが、ここ数年でダークマターという呼称が定着して
いて、人気ドラマ“逃げ恥”にも「世の中にはね、目に見えないダー
クマターだって存在するんだよ!」というセリフがあったり、スーパー
戦隊シリーズ『宇宙戦隊キュウレンジャー』の敵キャラがダークマ
ターを思わす「ジャークマター」という名前だったり、一般にも知ら
れるように。しかし専門家から見ると、「名前が変っただけで何もわ
かっちゃいない状況」なんだそうです。

伏見 賢一 (ふしみ けんいち)のプロフィール

184-satouyouichi.png
大学院社会産業理工学研究部 理工学域 教授

閲覧履歴